2026年3月1日日曜日

ATMの前で急に哲学者になる男

コンビニの隅に立つATM。
その前に立った瞬間、私は少しだけ賢くなる。
いや、正確には哲学的になる。

画面にはシンプルな選択肢。
「お引き出し」
「お預け入れ」
そして、あのボタン。

指を伸ばしかけて、止まる。
ここで急に考え始める。
「お金とは何か」
「欲望とは何か」
さっきまで普通におにぎりを選んでいた男とは思えない。

たかがボタン、されどボタン。
押せば数秒で完了する。
文明はこんなにも便利なのに、心はやたらと重たい。

頭の中で未来の自分が登場する。
腕を組み、静かにうなずく。
「その決断、ちゃんと説明できるか?」
急に面接みたいになる。

深呼吸をひとつ。
ATMは何も言わない。
ただ光っている。
その無言が、やけに強い。

結局、今日は何も押さずに帰った。
用事は済んだのに、なぜか少し達観した気分だ。
たぶん私は、数分間だけ哲学者だったのだろう。

ATMの前でだけ深くなる思考。
あの空間には、ちょっとした人生の縮図がある。
次に立つときも、きっとまた急に考え始めるのだと思う。

0 件のコメント:

コメントを投稿